先日、映画「カモン カモン」を観に行きました。
テレビ番組でモノクロの新作映画を紹介していて、
その中の一つが「カモン カモン」でした。
ホアキン・フェニックスが普通のおじさんを演じているのが新鮮で
興味が湧きまして。
そんな「カモン カモン」の感想です。
「カモン カモン」 あらすじ
ざっくりですが、
ラジオジャーナリストの中年男性・ジョニーが、
妹に代わって面倒を見ることになった甥っ子・ジェシーとの
共同生活や、ジョニーがジェシーと仕事先を巡りながら
繰り広げる珍道中を中心に描かれるヒューマン・ドラマです。
「カモン カモン」の感想
モノクロの癒し効果
ふと、「なんで、今さらモノクロ?」
「モノクロ映画って、物足りないんじゃ…」と
思わないでもないですよね?
確かに、画面に引き付ける力はカラーの映画に軍配が上がりそうです。
スマホ依存の対策として
画面をモノクロに設定するというものがありますが、
あれは「スマホの魅力を下げる」ことで
スマホを遠ざける効果を狙うもののようです。
「じゃあ、やはりモノクロ映画は魅力的じゃないってこと?」と
思われそうですが、もちろんそういうことではなくて。
今や娯楽はテレビや映画に留まらず
スマホにタブレット・PCで楽しむ動画やゲームなど多岐に渡り、
カラーは当たり前。
スマホ依存症が社会問題になっているような今の世の中では
強い光を放つ色や大きな音など、
ともすると刺激過多になりがち。
「カモン カモン」は、
愛がベースに感じられる人間味溢れるストーリーと
低刺激なモノクロの映像がマッチして
穏やかなゆったりとした時間を楽しめます。
実際、私は映画館で映画を観ると
強い光や大きな音のせいか偏頭痛が高確率で出るのですが
今回は珍しく頭痛は起きなかったですね。
観ながら、そして観終わった後もいろいろ考えさせられるタイプの
映画ではあります(考えようと思えば…考えられます)。
と同時に、なんだか映画に引き込まれ過ぎず
映画と程よい距離が感じられるような
「考え過ぎなくていいんだよ」と言われているような
一瞬のんびり、ぼんやりしていても許されるような…(だめ?)
そんな雰囲気に癒されます。
普通の悩める中年の兄妹
基本的にとても真面目で優しい兄妹のジョニーとヴィヴ。
ジョニーとヴィヴは母親の介護を経験したり、
ヴィヴはさらに育児や精神を病む夫の看病など
40代の私にはかなり身近でタイムリーな問題に接していて
親近感が湧きます。
認知症の母親の介護の仕方を巡って
また精神的に不安定な妹の夫を巡ってぶつかる兄妹を見ていて、
相手をコントロールしようとするところに葛藤が生まれるということを
改めて感じました。
葛藤は妹のヴィヴと母親の間にも描かれています。
母親からのコントロールを受けてきた少女が大人になって、
今度は母親に要求をぶつけるようになってしまいます。
こうやって映画を観るかように
自分がしていることを客観的に見ることができれば、
気づかないうちに自分自身や周りの人を苦しめてしまうことは
少なくなるんだろうなと思いつつ…
とっさにやってしまうことってあります。
人間ですし。
2人の人間がガチで向き合えば
問題が起こることは珍しくないですよね。
ましてや、気が合わない者同士だったら…。
状況もさまざまなので一概には言えませんが、
介護や家事・育児を1人や2人で抱えるのはたいがい無理があります。
今、家庭という密室で
家族が当たり前のように抱えている重荷を下ろして
もっともっと身軽になれる、
そういう社会になったらいいなと思いました。
アメリカらしくも、日本とも共通する育児や介護の壁
私の勝手なイメージですが、
人間の尊厳とか人権とかというものに関して
アメリカは日本よりも意識が高くて、
子供に対しても子供扱いせずに1人の人間として
接する傾向があるんじゃないかなっていう気がします。
素晴らしいことなんだけど、
それはそれで「こう接しなきゃ」という縛りもきつそう。
理想の介護や育児というものを実現しようとする中で
現実の壁というものは
(目指すところに多少の違いはあれど)
日本と同様にあるのだろうなあと感じました。
全てから解放される1人の時間の大切さ
ヴィヴの夫はさらに真面目で、こだわりの強いタイプに見えます。
彼のように凝り性だったりして、突き詰めて物事に取り組んだり
考え込んだりしてしまう状況にハマってしまうと
そこから抜け出すのが難しくなってしまうことがありますよね。
彼ほど物事にのめり込むような性格の人でなくても、
育児や介護・仕事…とやること・考えることがが満載で、
寝る時間も取れなくなると心身ともにしんどくなるのは当然のこと。
やはり、子育ても介護も仕事も
楽じゃない。
自分の本当の気持ちを見つめて確認したり、
自分や周りの状況を俯瞰したり、
何よりも自分自身の体や心にとって必要なケアをしたりする
1人の時間はたとえ短くても必要であり、
大切なものだなー、としみじみ思います。
正直な気持ちを伝える力・聴く力
ジョニーがインタビューする子供たちの成熟した考え方や
それを言語化し、
さらにそれを口頭で伝える力に驚かされます。
協調性を重要視する日本の社会と違い、
自立することが重要とされるというアメリカの子供らしいといえば
そうなのかもしれません。
ジョニーはジェシーにも得意のインタビューをして
2人の間の距離を縮めていきます。
インタビューに答えることで
自分の本当の気持ちや考えてはっきり認識できる。
ジョニーは仕事柄、相手の本当の気持ちを引き出すインタビューが
得意であり、またそういうインタビューの持つ力を知っているのでしょう。
ジョニーとヴィヴも、話すことで関係の修復を図ります。
ただぶつかり合うだけで終わらずに、
落ち着いて自分の正直な気持ちを見つめ直し、相手に伝えること。
自立以上に協調性を重んじる傾向のある日本では
これが結構ハードルが高いってことがあるように思います。
「この人、気を遣って本心を言ってないんじゃないかしら」って
感じることって、結構ありませんか?
私は正直な気持ちを話すことは意識的に心がけてはいますが、
それでも「ああ、当たり障りないこと言ってるな」と自分で思うことも
なくはないです。
ぶつかることを恐れず、
ぶつかった後にでも冷静になって
自分の正直な気持ちを見つめ直して相手に伝えれば
実際にはそんなに問題になることってないんじゃないのかなと思います。
それどころか相手に対する理解も深まって、
吐き出せば精神的にも落ち着くものではないでしょうか。
相手を思いやる気持ちはそのままに
正直な気持ちを表現することに慣れていくことが
居心地の良い人間関係を築くのに役に立ちそうです。
キュートで演技派の年の差コンビ
とにかく、ジョニーとジェシーが可愛いですね。
ジェシーに振り回されたり、妹との関係に悩んだりする
優しい「普通」の中年男性であるジョニーを
ふっくらしたホアキン・フェニックスが演じています。
彼が演じるジョニーは
すごく人間的な温かみで溢れています。
猟奇的なところは微塵もなく、安心して観ていられます(笑)
ジェシーを演じているウディ・ノーマンも、負けず劣らず演技派で、
天真爛漫な少年を瑞々しく演じています。
そして、とにかくかわいい。
2人の演技がとてもナチュラルで
リアルな物語がさらに身近に感じられます。
「演技しているんだよな」ってことを忘れるほど
自然な2人のやりとりと、とにかく2人のクリクリ頭がかわいくて
ほっこりします。
「月の光」で輝きを
作中に流れるドビュッシーの「月の光」は
私の大好きな曲です。
ピアノを習っていた中学生の時によく弾いていました。
個人的な思い入れを抜きにしても
月の光のキラキラとした輝きが見えるような、美しい曲です。
映画の中で、
静かながらもドラマチックな雰囲気を増幅させ、
きらめきを作品に与えています。
まとめ 離れて眺めてみる、ありふれた日常の美しさ
ジョニーが子供たちにインタビューしているシーンなど
誰かが話しているシーンが長く感じて、
少し心もザワザワしてきて
「落ち着かないなー」という部分もありました。
監督の几帳面さが滲み出ているのでしょうか。
登場人物たちもみな優しさが過ぎて
真面目過ぎて、少し息苦しく感じるほど。
それは、自分に覚えのある不器用さや至らなさ・
家族との確執など、
目をそらしてきたものをわざわざ見せられているような
気持ちになるからかもしれません。
「そんな、つまらなかったり
見慣れすぎて興味を無くしていたり
時には目を覆いたくなるような現実すべてが
こんなに愛すべき、美しいものだったのだろうか…。」
ただ、普通の人・普通のモノや風景を写した
モノクロの映像がそう思わせてくれます。
自然と自分と向き合い、
優しい気持ちになれる映画でした。
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